1 阿曽原温泉 四角い露天風呂1つのみ 湯量豊富、少加水あり 単純泉 透明、無味、湯口噴気臭
念願の阿曽原温泉、仙人温泉に行った。宇奈月からけやき平までのトロッコの走っている区間にあるいくつかの温泉、黒薙、鐘釣、祖母谷などの温泉群はかつて入湯したことがあるが、そこから登山道を奥に歩いてゆく阿曽原と仙人温泉は以前からの課題になっていた。
2007年の夏にトロッコ周辺の再訪も合わせて、行くこととした。けやき平から阿曽原に向かう水平歩道は高さ200メートル以上の絶壁が続き、単独行は危険だと考え同行者を探していた。このたび8月のお盆の連休に都合が合った。7月16日に起こった中越沖地震の影響で北陸本線の夜行列車が運休になっており、初日の宇奈月発7時32分に乗車するには前日の夜に富山入りしておかなくてはならない。寝台列車の北陸号に乗りたかったが飛行機で行くこととした。羽田20時発のANA便で富山空港に21時に到着し、宇奈月に直行できる魚津に泊まることとした。魚津は特急列車も停まる駅であるが、駅前は閑散としている。駅前のアパホテルに泊まった。
11日の6時始発の富山地方鉄道で宇奈月に向かうと、けやき平行きの始発7時32分に間に合う。今年の8月は猛暑で東京では熱い日々であったが富山空港に降り立ってみるとこちらも東京と同じほどの熱い気温であった。7時32分に無事トロッコ列車に乗りけやき平に8時47分に到着した。ここから阿曽原温泉まで絶壁が連続する水平歩道でコースタイム5時間である。途中、昼食があるので6時間と見ると、9時発15時阿曽原着である。
1日目のコースは危険な崖が多いので慎重に行かなければならない。けやき平を出ると、斜め後ろに戻るように急勾配を登ってゆく。約300メートルの高低差を水平歩道まで登るのである。最初から汗だくになりながら登った。6月から続けている8階のオフィスまでの階段登りをしていたので、コースタイム通り急斜面と尾根を突破し水平歩道に入った。
この水平歩道は断崖をコの字型にえぐったもので登り下りは少ないが、常に危険と直面している。最初に蜆谷という沢に出たところで10時半であった。次の志合谷は長さ150メートルの真っ暗なトンネルで抜ける。ヘッドランプを出して進む。ここが11時15分である。山ながら気温は高く、トンネルの中に入ると冷蔵庫のように涼しい。足元には冷たい水が流れている。この志合谷で高熱隧道の工事の際に宿舎が雪崩で全壊し100人近くの人が亡くなったところである。
行く前に吉村昭の「高熱隧道」を読んでいたので、ここの怖さは分かっていた。しかし今は夏であり、水平歩道も整備されている。注意を怠らなければ良い。志合谷を越えると阿曽原までの水平歩道でのハイライト「大太鼓」の難所である。対岸には「黒部の怪人」と呼ばれる奥鐘山の大岸壁が迫り、こちらも垂直の岩肌になる。そこをコの字型にえぐった道が続いており、大太鼓のあたりは道幅も狭くなり危険である。山側に一本の
番線が這わしてあり、それに掴まりながら進んだ。
次の沢が折尾谷でここで昼食を取った。食後12時半に出発して1時間ほどで水平歩道から別れ阿曽原温泉に下ってゆく。すこしバテ気味であったが14時に阿曽原温泉小屋に到着した。プレハブの小屋でコンクリートの台のような基礎の上に比較的大きな小屋が建っていた。
冬には解体して収納してしまうので簡素な造りである。内装も天井もない。窓も開け放しでただ雨露を防ぐだけのものだ。しかし小屋には電気がありビールが冷えており、長い水平歩道の緊張を解くのには最高である。そして温泉は小屋から10分ほどの下った地点にある。階段を下って行くので、帰りにまた汗をかいてしまうのが難点である。明るいうちに入浴しに行った。
入り口からもうもうと湯煙を立てているトンネルの前に四角い露天風呂の浴槽があるだけである。トンネルの中は40センチほどの高さの堤防があり、その奥は湯の池になっている。そこから黒いホースで露天風呂に源泉を入れているだけの簡単な仕組みの温泉であった。湯量があり使いきれずに溢れた湯は側溝を流れて捨てられている。60度以上の単純泉であろう。きれいな湯であった。
透明、無味、湯口噴気臭という温泉であった。熱いので加水して適温にしているが、夏の熱い時期には加水も致し方ないであろう。適温の温泉に入り、その後この冷たい水を浴びると爽快である。この繰り返しをした。夜に再度入浴した同行者の話だと加水が少なく激熱になっていたとのことである。小屋からはトンネルからの噴気が常に見えて温泉らしい雰囲気があった。お盆の休みの最中ながら個室で利用でき、静かな山小屋であった。
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